マンションを売った話

マンションを売りに出した。一人で住むには広すぎるからだ。

先月に妻を亡くしてから、家の中ががらんとしてしまって、いちいち一人であることを意識させられるのが鬱陶しい。それで売ることにした。

まだ住んでいるが、物も少ないのでそのまま内見をさせていた。自ら案内していた。仕事をする気にもなれず、休職しているので時間はある。都心とは言えないが都区内の駅から徒歩5分で値段も相場より安いからか、思ったより客候補の訪問がある。

思えば、このマンションは中古で購入したときからかなり安かった。この地区の相場も安い方ではある中で、このマンションは目立って安かったと思い出した。たまに引っ越しで出ていく部屋も見かけるが、そのあとすぐに埋まるので、僕は運が良かったのだろう。

初めは瑕疵物件なのかと警戒したほどだ。築年数がやや古いというだけで、購入の前年にリノベーションもされていて内装もきれいだったし、何か問題があるようには思えなかった。少し間取りが変わっていて、家具を置いたらデッドスペースが気になりそうかなという程度だ。

今日も一件の内見の案内を済ませ、ソファで一息ついていた。天気が良い日は、もっと客が多いのだが、駅から少し離れたこの場所では雨の日はキャンセルが相次ぐ。

ふと左に目を遣ると、ダイニングの椅子に座って妻が雑誌を読んでいた。生前もよくそうしていた。特に猫が好きで、飼ってもいないのに猫のペット雑誌を定期購読していた。

無論、実際には妻はそこにいるはずがない。心の防衛機構が作り出している幻想だろう。

雑誌を閉じた妻が、ねえ、ミカのこと覚えている? と言った。少し考えたが、知り合いに覚えのある名前ではない。いや、誰のこと? と訊き返す。妻は、男が弱った野良猫を連れて帰って介抱し、その後しばらく世話をしていた話をした。唐突に何の話が始まったのかと思ったが、その男が僕だという。

僕は面食らったが、雨音を聴いているとうっすら思い出してきた。確かに一時期、部屋に野良猫を置いていた。模様に三日月に似た部分があったからミカと呼んでいた。こんな雨の日に拾ったのだ。ダイニングの角のデッドスペースになっていたところに、座布団で簡易ベッドを作ってやり、世話をした。元気になった後もなんとなく追い出さず、それどころか定期的に病院に連れて行って、おおよそ必要と思われることをしてきた。

ある時、他の住民からおそらく鳴き声の苦情が入って、管理会社に秘密で飼っていたことがバレたのだ。その後、猫はどうしたのだったか。そこからは世話をした記憶がない。

妻は、ありがとうと言った。窓の外から目を戻すと、妻はいなくなっていた。

妻はがんだった。若年で発症したことを僕は大いに嘆いたが、妻は冷静だったように思えた。今思えば寿命だったのかもしれない。

広すぎるように感じていたが、1K 物件は一人暮らしとしても広すぎるはずはなかった。ただ喪失感からそう感じていたのだろう。売るのを止めようかと思ったが、やはり売ることにした。ペット可の物件に移りたいと思うようになっていたからだ。

OGP 誤魔化すためのペヤング



あとがき

今朝4時頃に急に目が覚めて、プロットが降ってきた。僕は普段小説を書かない(中学生以来だ)ので、突然のことにどうしようかと思ったが、誰かにネタとして提供できれば良いか、何なら ChatGPT に小説でも書かせてみようかと思って一応メモを取った。

その後実際に ChatGPT にプロットを与え、解釈を修正するなどの編集をしてみたが、面白い話にはまるでならなかった。そこで自分で書くことにした。とはいえやはり力量が足りずに、面白いと思ったギミックは結局あまり活かせなかった。どこに新規性・意外性があるんですか? と自問してしまうが、まあネタは供養するに限ると思って公開した。

以下は ChatGPT が生み出した小説の一部。


ありそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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